【筆者プロフィール】 弁護士 水島昂
弁護士法人小林綜合法律事務所所属。 主に労務問題や訴訟案件等の民事事件を取り扱う。 特に重度障害を伴う労働災害などの、損害賠償請求事件を得意としている。業務委託契約、請負契約に関する相談も多く、フリーランスにまつわる法律問題にも詳しい。
副業は、労働者個人のスキルアップ、十分な収入のメリットだけではなく、社会全体としてみても、オープンイノベーションや起業の手段として有効であり、政府は、働き方改革の一環として、各方面で副業の普及を促しています。
しかしながら、現状はまだまだ副業が普及しているとは言い難く、就業規則に副業の禁止を規定する企業が大半です。そのため、副業を行うことで雇用主とのトラブルにつながることもありえます。
また、副業は、これまで会社の一員としてある意味保護されてきた方が、契約の当事者として、自身の名において、発注先と直接やりとりを行うことになります。
当然、発注先や第三者からのクレーム等も自身で対応しなければならず、場合によっては、代金未払や、自身の契約違反等に伴う責任追及など、法的トラブルの渦中に巻き込まれることもあるでしょう。
そこで、今回は、副業(特に、個人で業務委託・請負を行う場合)にまつわる法的トラブルについて、説明していきたいと思います。
1.雇用主とのトラブルについて
(1)そもそも、副業は違法なのか。
サラリーマンの副業が、雇用主との関係で違法となるかは、雇用主との労働契約の内容、具体的には就業規則の内容が重要となります。そのため、副業を始める際には、まずご自身の勤務先の就業規則を確認しましょう
厚生労働省のホームページで、モデル就業規則というものが公開されておりますが、平成29年12月時点では、副業に関し、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と定められてられていました。
そのため、多くの会社で、未だにこのような就業規則になっていると思います。
このような就業規則がある会社においては、許可なしに副業をしてしまった場合には、直ちに就業規則に反し、懲戒処分がされる行為になるのでしょうか。
答えはNOです。
裁判例では、就業時間外は本来労働者の自由であり、副業を全面的に禁止することは許されないとしつつ、例外的に、①長時間の兼業等で労務提供に支障がある場合、②企業秘密が漏洩する場合、③会社の名誉や信用を損なう場合、④競業により企業の利益を害する場合等の合理的な理由がある場合には、副業を制限することが認められるとされております。
つまり、副業が上記の4つのケースのいずれかにあたるような場合に、初めて違法となり、懲戒処分の対象となり得るのです。
なお、冒頭で述べた「働き方改革」の一環として、以上のような裁判例の積み重ねを踏まえ、厚生労働省が平成30年3月にモデル就業規則を改定しました。そこでは、原則とし副業を認めるとともに、副業を許可制ではなく、届出制に変更されております。また、副業を制限できる場合として、上記の4事由が列挙されております。(モデル就業規則第68条参照)。
(2)無許可で副業をし、会社に発覚してしまった場合
それでは、無許可で副業をしてしまったところ、会社に発覚してしまった場合にはどうなるでしょうか。すぐに、懲戒処分の対象となってしまうのでしょうか。
これも答えはNOです。
副業が許可制となっていたとしても、副業を制限する合理的な理由がない限り、副業を許可しなければなりません(副業を許可しないことについて、不法行為を成立させた裁判例も存在します。)。ですから、無許可での副業が、形式的には就業規則に反するとしても、直ちに懲戒処分の対象となるというわけではありません。結局は、前述した事由に照らして、副業の制限に合理性が認められるかという点が重要となってきます。
逆に言えば、無許可副業が発覚し、すぐに減給や懲戒解雇がされた、といったケースでは、会社側の対応が違法である可能性があります。このような場合には、弁護士に相談したほうが良いかもしれませんね。
もっとも、無許可副業が違法になるかどうかは別として、企業の立場からすれば、従業員に無断で副業をされるというのは、労務管理や競業避止義務の確保という点で不安がつきまとうものです。
雇用主とのトラブルを避け、円滑な関係を維持するためにも、副業の可否や内容、程度について、雇用主としっかり協議を行い、理解を求めるというのが得策といえるでしょう。
2.発注先や第三者とのトラブルについて
さて、これまで、主に副業をする労働者と、雇用主とのトラブルを検討してきましたが、今度は、発注先や第三者とのトラブルについてみていきましょう。
(1)発注先とのトラブルについて
受注者は、個人として稼働する一方、発注者は企業であることが大半であり、立場としては後者の方が強いということは容易に想像できると思います。
そのため、発注者は、立場の違いを利用し、①払うべき代金を払わない、②不当に代金を減額させる、③著しく低額な取引単価を設定させる、④成果物の権利を一方的に発注者に帰属させる、といった様々なことを行ってくる可能性があります。
このようなトラブルが起きる原因の一つとして挙げられることが出来るのが、契約書の不存在でしょう。
契約書が無いがために、代金の支払い時期や業務の内容、権利の帰属等があいまいなまま、取引がスタートしてしまい、ずるずると発注者のペースになってしまうのです。
契約書は、万が一発注者と戦うことになった場合に、大きな武器になるため、可能な限り作成を求めるというのが、トラブル回避の第一歩ではないでしょうか。
もっとも、発注先との関係上、どうしても契約書を作りづらいということもあるでしょう。その場合には、発注先と、業務の内容や支払時期等について、メールなどで明確にやりとりを行い、しっかりと、条件を証拠として残しておくということが肝心です。
(2)第三者とのトラブルについて
また、注意しなければならないのは、例えば副業として、文章やポスター、映像、プログラムの作成を受注した場合、自身が作成した成果物が、第三者の著作権や商標を侵害していないかという点です。
ボスターや映像などに、他人の著作物が入ってしまうということがありますが、これにより第三者からクレームをつけられるということも。
ここでは著作権等に関して詳しく立ち入ることはしませんが、一ついえるのは、第三者からのクレームや訴訟も含め、全て個人の責任で対応することが必要になるということです。そのため、受注の際には、正しい法律知識が不可欠になってくるといえます。
3.最後に
副業をする以上、法的に無知であるということはリスクでしかありません。副業にまつわる法律関係について、正しい知識を身につけることは、必須教養といえるでしょう。
万一、トラブルや訴訟に巻き込まれてしまった場合には、信頼できる弁護士に相談するのも良いですね。弁護士というと敷居が高いイメージがありますが、現在は法テラスや自治体による無料法律相談も充実しています。
長くなりましたが、皆様のさらなる副業ライフの充実をお祈りしております!